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役に立ちすぎるため、辞書からこぼれた言葉　７


　色の道おしえます

美しいものの美しい言葉

焦　　濃　　重　　淡　　清

墨一色は、けっして単調ではない。 水墨画の世界では、濃淡のバリエーションを指して　「墨に五彩あり」　と称した。 ベタのくろぐろとした黒を、　焦　という。 順にうすくなるにつれ、　濃　・　重　・　淡、 そしてきわめてうすい、明るいグレーを　清　と呼んでいる。

漆黒（しっこく）

「漆黒の闇」　といった使い方をするが、　漆（うるし）を塗ったような光沢のある黒をいう。 金沢の寺の多い地区の屋根瓦は、一面の漆黒。　カラスの　「濡れ羽色」　もツヤを感じさせる黒。 「すす」　からとった黒絵の具は　「ランプブラック」。 フランス語で黒は　「ノアール」。 「フィルム・ノアール」　といえば暗黒街のギャング映画を指す。 黒い毛並みの馬を　「青毛」　というのは青がもとは暗いことを指したためだ。

四十八茶　百鼠（ねずみ）

江戸の洗練は色調の名称の豊富さにも表れている。 今の目で見ると、いずれも渋好みに見えるが、わずかな色合いの違いを楽しんだものらしく、 俗に　四十八茶百鼠　と称した。 茶系統に四十八種、　鼠系統に百種あるという意味。

茶系統をあげてみると、、、 璃寛（りかん）茶、　利休茶、　芝翫（しかん）茶、　　お納戸茶、　　唐竹（からたけ）茶、　　藍（あい）どめ茶、　市紅（しこう）茶、 黄海松（きみる）茶、　海松（みる）茶、　藍媚（あいこび）茶、　黒媚（くろこび）茶、　媚（こび）茶、　千斎（せんざい）茶、　宗伝唐（そうでんから）茶、 家伝茶、　梅幸（ばいこう）茶、　江戸茶、　岩井茶、　鶯（うぐいす）茶、　鶸（ひわ）茶、　柳茶、 煤竹（すすたけ）茶、　栗皮（くりかわ）茶、　桑茶、　豆がら茶、　葡萄茶、　栃（とち）茶、　丁子（ちょうじ）茶、 黄返し茶、　樺（かば）茶、　黄茶、　唐（から）茶、　黄唐（きがら）茶、　焦（こげ）茶、　緑茶、 黒茶、　青茶、　白（しら）茶、　赤黒（あかぐろ）茶、　黄黒（きぐろ）茶、　黄赤茶、　金茶、　路考（ろこう）茶　　などなど 鼠系統をあげてみると、、、 紅掛（べにかけ）鼠、　紅消（べにけし）鼠、　利休鼠、　貴族鼠、　深川鼠、　生壁（なまかべ）鼠、　どぶ鼠、 銀鼠（ぎんねず）、　葡萄鼠、　桜鼠、　紅梅鼠、　梅鼠、　漆（うるし）鼠、　柳鼠、 藤鼠、　鳩羽（はとは）鼠、　藍（あい）鼠、　深鼠、　鼠返（ねずみがえ）し、　濃鼠、　薄鼠、　千種（ちぐさ）鼠、　　などなど

知っていると粋（いき）なものだが、　色合いを言葉だけで表現するのは難しい。 しかし、だいたい次のようなカンジです。 路考（ろこう）茶　・・・　歌舞伎の女形、瀬川路考がはやらせた色で、黒みがかった黄茶。 梅幸茶　・・・　初代尾上菊五郎が打ち出してはやった、茶がかかった淡い萌黄（もえぎ）色。 　　　　　　　　　萌黄色は、一般に草木色といわれる。　いわゆる黄緑のこと。 千歳茶　・・・　黒っぽいうぐいす茶。 媚茶　・・・　黒みが濃い茶色。 千種鼠　・・・　青みがかったグレー。 利休鼠　・・・　にごった緑がかったグレー。　粘土色に近い。

浅葱（あさぎ）

「あさぎいろ」　という語感からか、　よく黄色系統と間違える人がいる。 その先入観から　「浅葱」　という字を見て、 浅いところに植わっているネギの茎は黄色であるとますます確信を深めるらしい。 本当は　「ブルー」　である。　　宝石でいえば、　トルコ石の青が近い。 藍染（あいぞめ）でこの色を出す。 藍染は、染めの回数で濃淡を染め付ける。 淡い順に、 甕覗（かめのぞき）、　浅葱、　縹（はなだ）、　紺（こん）　　となる。 浅葱色は、　大正時代に、新橋の花柳界で、モダンな色として大流行したため、　別名　「新橋色」　ともいう。

鶸（ひわ）色

「ひわ」　という小鳥の羽毛の色である。 明るく、淡い黄緑、若草色がこれにあたる。　緑が濃くなると、　鶸萌黄（ひわもえぎ）という色になる。 動物からとった色の名には、ほかにも 蜥蜴（とかげ）色　・・・　黒っぽい黄緑のツヤのある色。 鳶（とび）色　・・・　「トビ色の目」　というように、　虹彩の茶褐色のあの色である。 昆虫では　玉虫色　が代表格だろう。

和名で言い換える

たとえばオリーブ系統のセージグリーンは、和名では山鳩色という。 古風だがイメージが明快で、時にはこっちの色名も使ってみたい。 モスグリーン 苔（こけ）色 グレーっぽい茶色 朽葉（くちば）色 セピア 焦（こげ）茶 青みかかった明るいグレー 銀鼠（ぎんねず） 黒みかかったグリーン 鉄紺（てっこん） 曇天の空のグレー 深川鼠（ねず） 青みかかったチャコールグレー 藍鼠（あいねず） 紫っぽいグレー 鳩羽（はとは）鼠 グレーっぽいブルー 錆桔梗（さびききょう） 紫かかった紺 茄子（なす）紺 にぶい赤紫 古代紫 緋（ひ）色があせたような色 緋褪（ひさめ）色 ガーネット 海老（えび）茶 クリームっぽい黄色 梔（くちなし）色 スカイブルー 露草色 ウルトラマリーン 瑠璃（るり）色

紫の法律学

現代でも、職業と色は深く結びついている。 裁判官の黒い法衣、　医者の白衣、　労働者のブルー、　サラリーマンの白いワイシャツ。 古代ローマでは、職業によって着衣の色が決まっていた。 白　・・・　占い者 黒　・・・　神学者 青　・・・　哲学者 緑　・・・　医者 アメリカの大学では、１９世紀の末に学部の色分けを次のように決めた。 古代ローマのものと比べてみるとおもしろい。 白　・・・　文学 黒　・・・　美学 青　・・・　哲学 緑　・・・　医学 赤橙・・・　神学 紫　・・・　法学 金黄・・・　理学 橙　・・・　工学 ピンク・・・音楽

紫に生まれる

洋の東西を問わず、紫は高貴な色とされた。 「紫に生まれる」　といえば、やがて王位につくことを約束された皇子に生まれたことを意味する。 古代ローマでは、地中海原産の巻き貝からとった紫色をロイヤルパープルと呼んで尊んだ。 この紫は太陽の光線を受けると鮮やかな紅色に変わるのである。 東洋では、漢の時代に紫は帝室カラーとされ、 唐代になると天子の住むところは紫宮（しぐう）、正殿を紫宸（ししん）と名づけた。 その流れを受けた日本では、平安貴族が　「色」　といえば　「紫」　を指すほどの愛好の対象となった。 「源氏物語」　の中で、理想的な女性として描かれているのが　「紫の上」　であることも、ここに理由があった。 仏教の世界でも、阿弥陀如来（あみだにょらい）が来迎（らいごう）するときには、　「紫雲」　がたなびくのだ。

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参考文献：　辞書にないことば　主婦と生活社

（制作：2006/07/10/無断転載禁）

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